林陽子(Yoko HAYASHI   平成25年学位取得

 

◇博士論文の紹介

大学院での様々な実習、臨床実践の経験から、自閉症スペクトラムなど発達障害のお子さんやそのご家族への支援に関心を持ち、臨床心理士として実際の支援と研究活動を行っています。研究をまとめ、広汎性発達障害児・者における強迫関連症状の特徴と支援LOI-CV日本語版の標準化による検討と支援プログラムの開発―」という博士論文を執筆しました。

広汎性発達障害(以下PDD)の診断基準のひとつである「限局した興味や活動(こだわり)」は、強迫症状とも連続性があると考えられています。思春期以降、他者とのトラブルなどを契機として、以前からみられるこだわりの一部が顕著な強迫症状となって現れるケースも少なくありません。しかし、PDDと強迫性障害の関連や併存、PDDに特徴的な症状、介入法などについての知見は少ないのが現状です。PDDの人々が示す強迫的な症状を明らかにし、適切な介入を行うことで、その後の適応を改善することにつながると考えられます。博士論文では、PDDの強迫に関連した症状を「強迫関連症状」と定義してその特徴を整理し、介入法の開発を試みました。また、強迫傾向を測定するLeyton Obsessional Inventry-Child VersionLOI-CV)の日本語版をPDD児・者に実施することで、PDDの強迫関連症状を多面的に検討しました。

 

◇博士論文を執筆しての感想

 研究をまとめる作業を通して、更に詳細に検討しなければならない課題が明確になりました。また、実際の臨床現場に研究成果を還元していくことが重要であると思います。実際の支援活動を行う中でぶつかる問題を研究し、その結果を支援に還元する、両方を実施していくのはなかなか難しいことではありますが、そこが臨床研究の面白さでもあると感じています。

 

◇主な研究成果

林陽子・吉橋由香・田倉さやか・辻井正次(2010).高機能広汎性発達障害児を対象とした完全主義対応プログラム作成の試み,小児の精神と神経.50(4)407-417 

林陽子・岡田涼・谷伊織・吉橋由香・辻井正次(2012).広汎性発達障害における強迫関連症状に関する調査.児童青年精神医学とその近接領域,53(5)607-622

林陽子・吉橋由香・岡田涼・谷伊織・大西将史・中島俊思・松本かおり・土屋賢治・辻井正次(2012).小・中学生の強迫傾向に関する調査 ―Leyton Obsessional Inventry-Child VersionLOI-CV)日本語版による検討.児童青年精神とその近接領域,53(1)1-10

 

谷 麻衣子( MAIKO TANI)  平成24年度修了 

 

中学生の広汎性発達障害児における対人行動及び対人行動欲求に関する研究

-定型発達児との比較から-

 

研究概要

 「中学生とはそもそも同性の友人とどんなことをしているのか?どんなことを望んでいるのか?」というのが研究のテーマでした。また,元々自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害(以下PDD)の支援に興味をもってきたことから,一般的な中学生とPDDの診断を持つ中学生とで,同性の友人との活動やその欲求について比較をしようと考えました。また,友人との活動や欲求の内容には性別の違いも関係あると言われています。コミュニケーションや対人関係の苦手さをもつ思春期以降のPDD児者の中には,友人関係で悩む子が少なくありません。この大きな悩みの一助となるような“コツ”を伝えたいと思ったのが研究の発端でした。

過去の研究では,中学生の友人との活動や友人への欲求には性差があることが指摘されていました。一方で,友人への欲求というものを具体的な活動項目(例:一緒にトイレに行く)で捉えることで,欲求の内容を具体的に把握することができ,実際の友人との活動との関連も捉えやすくなると考えました。

 まず,過去の研究で用いられた友人との活動項目尺度を調査項目のベースにしつつ,一般的な中学生の生活や,PDDの診断を持つ中学生の生活を反映した項目ができるように,一般的な中学生・PDDの診断をもつ中学生両方に普段の友人との活動や,どんな活動をする関係が友人と思うのかなどを調査しました。その調査結果を臨床心理士の資格をもつ大学教員や臨床心理学を専攻する大学院生らで検討した結果,既存の項目の表現を改めたり,項目を新たにいくつか加えることとしました。

 その項目らについて,「同性の友人としたいと思うこと」と「実際に同性の友人としていること」という2点についてそれぞれ評定してもらい,とある公立中学校2校とPDDの診断を持つ子どもたちに評定してもらい,その結果を比較しました。

 その結果,一般的な中学生の中でも同性友人との行動欲求や実際の行動の内容に性差があること,ASDの診断をもつ中学生の中では友人関係について独特の定義を持つ者がいたり,ASDの診断をもっていたとしても,その行動傾向は一様ではないことなどがわかりました。そのため,ASD児者への友人関係の支援は本人を取り巻く環境の性差を考慮する必要があること,ASDの診断があるからといって友人との行動傾向は一様ではないことを念頭に置き,当事者一人一人のアセスメントをする必要があることがわかりました。